【リポート】−一般社団法人 九州のムラ−

一般社団法人 九州のムラ」代表理事 養父信夫さん
一般社団法人 九州のムラ代表理事 養父信夫さん

農泊で農山漁村に入るきっかけを

 今回取り組む農泊・農業体験等の事業について、長年、都市と農村の交流や農泊を推進してきた一般社団法人 九州のムラ(福岡県宗像市)代表理事の養父信夫さんにお話を伺いました。

 ―農泊事業ではどのようなことを進めているのですか。

 私は25年ほど前から、九州で都市・農村交流グリーンツーリズムを広げようと活動をしてきました。九州全体のグリーンツーリズム・ネットワークの取りまとめ的な役割もさせていただいて、都市部の人とムラの人をつなげるさまざまな取り組みを応援してきました。今回は、就職氷河期世代の方々を主な対象に、都会に住む人たちに一定期間、農山漁村で仕事に従事していただき、そこでの生活に入るきっかけをつくれないか、新しい人材の発掘につなげたいという思いでこの事業を組み立てました。

 ―農泊の良さとは。

 農泊でもてなし役を務めるのは、だいたいが第一線をリタイアされた高齢の兼業農家の人たちですが、そうした農村の方々とのふれあいはもちろん、農村の豊かな食も、都会の人にとってはたいへん魅力的なはずです。都会に住んでいると自然の移ろいを感じる場面も少ないと思います。最近、自分の子どもに本物(の自然)や命のありがたさを体験させたいと、農村に関わり、住んでみたいという人は、「二地域居住」も含め増えている気がします。

 ―都会の人が実際に農業を始めるのは難しいのでは。

 かつては、都会で会社勤めをしている人が転職を考え、「田舎で仕事を見つけたい」という場合、「年収500万円」の確保が希望ラインでした。しかし、いきなり独立して田舎で500万円の収入を得るのは正直厳しいと思います。しかも、有機農業を覚え、作物を加工して付加価値を付け、販売もする、いわゆる「一人6次産業化」ともなると、なおさら難しいでしょう。

 今回、農泊を受け入れる農家には、地域のリーダー的な方が多くいらっしゃいます。そうした方は、自分の住む地域を活性化したくて、グリーンツーリズムや農泊に以前から取り組まれてきました。地域のリーダーが都会の人の受け入れの窓口なのです。今回の事業をきっかけに、都会の人がムラに入れば、農泊の受け入れ先が「親役」になってくれます。何の縁もないところの自治体窓口にいきなり行って、「田舎暮らしがしたい」「空いている土地はないか」と話をしても、なかなか周囲とコミュニケーションが取れないし、特に土地はそう簡単に手に入りません。農泊をした場所で縁がつながれば、地域の人たちが「応援団」になってくれます。

 その地域の事業者、例えば農事生産法人や農事組合法人、直売所などにまずは就職して、その中で地元の農家さんともしっかりコミュニケーションを取りながら農業のことを覚え、場合によってはその延長で土地も譲っていただく。そういうきっかけは、何も縁のないところでチャレンジするより、私たちの企画を通じて(農山漁村と)つながる方が入りやすいと思います。

 ―今回、養父さんが関わっている地域には、どんなところがあるのでしょう。

 宗像市だけでなく、(福岡県)八女市や佐賀の三瀬村など、全部で11カ所あります。実は農業だけではなく、漁業、林業も含め、いろいろ組み立てました。

 農泊・研修生の目標は100人です。この事業がきっかけになって、少しでも地域で雇用され、移住・定住するというところを目指したいと考えています。各地域には「本当に働けて、雇用可能なところでのプログラムを何とか組み立てていただけませんか」とお願いをしてあります。そこでうまくマッチングができれば、次につなげることができます。

 ―農業に取り組むやる気、意欲が重要ですね。

 それはそうです。そもそも、(研修生で農業の)経験があるという人はほとんどいないはずです。都会の人たちは何も(経験が)なくても構いません。

 ―地域や国が支援しながらも、最終的には農家として自立しなければならないわけですよね。

 例えば、今回の研修先のひとつ、大分県宇佐市安心院では、今までぶどう観光農園を行ってきた方々が高齢化され、あとをどうするかという課題があります。今回の事業で、農家の生まれではないけど、本当才覚がある人が(研修者に)いれば、ゆくゆくは農園をそのまま引き継いでもらうという可能性もあります。

 八女市立花町はキウイフルーツの栽培が盛んです。地元の若い人たちにもキウイ栽培専業の方がいるので、今回の研修をきっかけに地域とつながりをつけて、将来的にキウイ農家として独り立ちをするべく相談できるのではないかなと思います。

 ちなみに、今回(農泊を)受け入れる立花の方は「道の駅たちばな」の元社長です。受け入れ先でも中心になって動いてくださっています。何か相談を受けて、彼が「よし、あなたの面倒を見よう」という人間関係をこの研修の中でつくれれば、(農村移住の)可能性はすごく高くなると思います。

 ―今後の農泊事業の可能性をどう見ていますか。

 地域の可能性、生き残り策としては、まず、都会の心ある人、そしてお金も払ってくれる人たちと直接つながることです。その人たちが農村のことを理解し、農産物の加工品をしっかり買い支えてくれるような、顔の見える関係をどこまで深掘りにしていくか…。こういう部分がまず一つあります。

 二つ目はインバウンドでしょうね。今は新型コロナウイルスの感染で(海外から人が来ない)こんな状況になっていますが、やはり日本の文化や日本の食に興味を持っている人には、より深く日本を知りたいというニーズがあります。1回目、2回目(の来日)は定番(の旅行)でも、(その後は)農村にも入っていく方が多いでしょう。国内でしっかりと(都市と農村の)関係性をつくりながら、その次にインバウンド受け入れ準備も必要だと思います。(了)

(ジャーナリスト・村田純一)

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