地域に滞在し農業体験!短期農業研修「JAL農業留学2021」
日本航空が行う短期農業研修事業について、同社地域事業本部事業戦略部の澤田敬文さんにお話をうかがいました。
―日本航空が農業研修の事業を始めたのはどうしてですか?
日本航空はこれまで航空運送事業者として空港と空港の2拠点を結ぶことで、お客様と物を運ぶ役割を果たしてまいりました。
これから国内の人口がさらに減少し、労働人口も減っていく中で、地域の本質的な課題解決をしなければと、昨年2020年11月に地域事業本部を新設致しました。
私どもの強みは、国内外の拠点と人と組織のネットワーク、そして顧客基盤を持っていることです。
農業分野への貢献としては、農産物の高速輸送はもちろん、客室乗務員が持つキュレーションの能力を活用して6次産業化のお手伝いをし、さらにそれを全国や世界へ紹介することもできます。 また、農業の持つ多面的な機能を、グリーンツーリズム、「農泊」といった新しい旅の形で生かし、地域の活性化のお手伝いができるのではと考えています。
―地域に2週間滞在して農業研修をするということですが、どういう内容でしょうか。
都市圏にお住まいで、将来の就農にご興味のある方を対象に、100名を目標に募集をしています。1カ所20名程度で5カ所の地域で実施します。コミュニケーションがとりやすいように人数を限定し、参加者同士のチームワークや連携にも期待しています。
全国の農泊地域の中から研修施設の要件などで実施場所を選ばせていただき、10月3日から岩手県遠野市を皮切りに5地域で順次展開して参ります。
―まだ募集段階だということですが、参加希望者はどういう層の人が多いですか?
募集の一つのターゲットは、次のステップとして就農を考えている方や、将来、定年退職後に農業を考えている方です。
現段階の応募者の応募動機を拝見すると、SDGsや農業への意識の高い方が多く、男性よりも女性が少し多い印象です。
まずは地域の暮らしや農業を経験していただいて、地域に関わっていくうちに農業そのものではなく、農業を支える関連の仕事に就く方もいらっしゃるかもしれませんが、まずは「お試し農業」という形でハードルを下げて、自分なりの働き方を考えていただければと思います。
―お試し農業を入り口に「関係人口」につなげていこうということですと、さまざまな関わり方があると思いますが、事業の後、地域とどんな関係が生まれるとイメージされていますか。
個々人によって幅があると思います。完全な農業経営者になる方も将来出てくればいいですし、また農業経営体に勤める方もいらっしゃるでしょう。農業を流通や販売で支える役割もありますし、6次産業化のようにメーカーや企画の立場から農業を支えていく方法もあるはずです。
移住や定住に限らず、都市圏との2拠点居住という形で、週末は地域の仕事に関わるというパターンもあっていいと思います。コロナ禍で働き方はずいぶん変わりました。Wi-Fi環境とパソコンがあれば場所を選ばずにできる仕事もたくさんありますので、新しい働き方も踏まえて、思い思いに皆さんの夢を実現できるようになればと考えています。
―現地での滞在は「農泊」というのが、大きな特徴だと思いますが、農泊のメリットや意義をどうとらえていますか?
「農泊」の普及、定着は日本ではまだこれからだと思いますが、例えばイタリアでは、衰退していた農村の活性化策として各農家での農泊を支援して、町を一つのホテルに見立てた「アルベルゴディフーゾ」(分散型のホテル)という仕組みがあり、それがヨーロッパ各地に広まっています。
町の真ん中に受付の機能を持った場所があり、宿泊は農家で、食事は街のレストランに行くというように、一つの宿泊施設の中だけで完結しない仕組みとして、日本ファームステイ協会様も推進されています。
長期間滞在して農業を体験する旅行習慣がすでにヨーロッパでは定着しています。今後、インバウンドの復活を考えても、欧州の方のニーズは増えていくと考えております。
世界から見ると日本はやはり清潔さナンバーワンで、真っ先に訪れたい国と言われています。その準備のためにも、農泊のノウハウは重要になると感じています。
―農泊で旅行者が町を巡れば地域のにぎわいにもなります。まず国内の受け入れに慣れておけば、いずれ外国人を迎える時にもノウハウができて、地域にもメリットがあるわけですね。
はい、国内の需要はもちろん重要ですが、内需だけですと限界があり、やはり今後インバウンド需要の復活は大きな期待であると思います。
日本の本物の原風景や食べ物を経験された方は、地域のファンになっていただけると思います。SNSなどで情報を拡散していただければ、地域の宣伝になり、消費や物流にもつながっていきます。航空運送事業者として、世界と地域と都市を結んで地域経済を活性化し、そのために地域の皆さまと伴走することが、我々が目指す地域事業だと考えています。
―農業体験による人材発掘事業は地域の課題解決にはつながると思いますが、その一方で、都市の暮らし方にも人口集中、過密といった課題があります。都市サイドにはどういう変化やメリットが期待できるでしょうか?
都会で生まれ育った人の中にも、働くためだけに都会に縛られている人がいるかもしれません。何かやりたいと思っても、きっかけがなかった人が、今回の農業体験事業を通じて、次の新しい第一歩へ進むチャンスになる可能性はありますし、また地方から都会に出てこられた方にとっても、昔とは違う新たな発見になるかもしれません。
自然豊かで、食べ物もおいしい、職住近接で通勤ラッシュのない生活、特に東京は居住コストがかかります。人が多い都会のマンション生活では、隣の住人がどんな方なのかよく分からないといったこともありますが、地域には顔の見えるコミュニティがあります。例えば、子育てを相互扶助していくようなサポートも生まれやすいと思います。そうした暮らしや、住みやすさのメリットがあると思います。 またIT関係や間接業務をされている方は、ずっとパソコンの前に座って精神的にもストレスが多いと思います。2拠点居住やリモートワークで、社員が元気になることは、会社にとっても生産性の向上につながります。週末、地域で農業に関わってリフレッシュし、元気になって平日は日常業務の生産性をアップする。やはりココロとカラダが元気になる人を増やせるのは、大きなメリットです。
―最後に、この事業で実現したい日本航空さんが描く持続可能な都市と農村地域のビジョンを教えていただけますか。
やはり地域なくしては日本の将来は考えられませんし、その上で我々の事業も成り立っています。
日本航空としてはSDGsの取り組みを中期経営計画の中心に置いています。持続的な社会、持続的な流動を創造していく一環として、この人材発掘事業で地域の方と「協働」させていただきたいと考えています。一人ひとりのお客さまが地域とつながることで、関わりが深まり、交流人口から関係人口を生み出すことができます。私ども日本航空の社会的な大義からも、この事業に今後とも取り組んでまいりたいと思います。(了)