「半農半X」を学ぶ!~大分県・安心院

「農泊発祥の地 安心院」のぶどう園の研修場所
「農泊発祥の地 安心院」のぶどう園の研修場所

「農泊発祥の地」として知られる大分県宇佐市安心院(あじむ)町は、同市の山間部にある西日本有数のぶどう産地だ。当地で、ぶどう栽培やドライフルーツの製造・販売など幅広く事業を営む「株式会社ドリームファーマーズJAPAN」が11月19日から25日まで、9人(男性4人、女性5人)の研修生を対象に農業研修を実施した。東京、神奈川、愛知、福岡などから訪れた研修生は農業や農泊体験とともに、農業と別の仕事を組み合わせた安心院の「半農半X(エックス)」についても学んだ。

「農業はチームワークが大事」

 ドリームファーマーズは、宮田宗武さんと安部元昭さんが共同代表取締役を務めている。2人はYouTubeの「ドリームファーマーズちゃんねる」に出演し、ぶどう栽培の具体的方法や地域のイベントなどさまざまな安心院情報を発信。チェンネル登録者数は1万人を突破している。

 11月19日午後3時から、研修のオリエンテーションが始まった。宮田さんの指示で、研修生は席を移動しながら1対1で向かい合って1分間でお互いに自己紹介した上で、全員の前でも一人ひとりがあいさつした。宮田さんは「農業はチームワークが大事です」と、初めて知り合う研修生のコミュニケーションに時間を割いていた。

麦まき、たい肥散布、カボス収穫

農地の麦まき
農地の麦まき

 20日から農作業の実地研修に入った。まず緑肥(麦)まき。一人ひとり緑肥を入れた容器を肩からぶら下げて、手で農地にまく作業だ。宮田さんは土づくりについて「山を削った土に、大量の牛糞のたい肥を入れて耕し、そして自然に近い麦をまきます。有機農業で野菜をつくるには3年の麦まきが必要。土中の悪いものは麦が吸ってくれます」と説明した。やり方は人それぞれ。地面にむらなく麦をまくのはけっこう難しい。

イノシシやシカの侵入を防止する柵を設置
イノシシやシカの侵入を防止する柵を設置

 次にイノシシやシカの侵入を防ぐ「柵立て」。農地の周囲に、高さ2メートルの金属の柵を設置する作業である。支柱を地中に打ち込み、その上に別のポールをかぶせ、金属ネットを張って針金で結ぶ。地面に柵を固定するため、かぎ状の「アンカー」をネットに引っかけ、大きなハンマーで土中に打ち込む。これがなかなかの力作業で、繰り返し重いハンマーをたたいていると、手がしびれてくる。

安心院のぶどう園ビニールハウスの上から。ビニール撤去作業中の研修員
安心院のぶどう園ビニールハウスの上から。ビニール撤去作業中の研修員
ぶどう園ビニールハウスの中
ぶどう園ビニールハウスの中
ビニールハウスの屋根から撤去されたビニール
ビニールハウスの屋根から撤去されたビニール

 ぶどう園では、ビニールハウスのビニール除去、たい肥散布、ぶどうの木の枝の剪定(せんてい)などを次々に体験した。収穫期を過ぎた「二番成り」のぶどうがいくつかぶら下がり、これは食べてもいいというので、味見してみた。少し甘酸っぱいが、おいしかった。

たい肥の散布作業
たい肥の散布作業

 大分名産カボスの収穫作業も体験し、参加者は木の枝からハサミで実を一つひとつ切り取った。木の枝になるカボスの量は想像以上に多い。「いろいろ話をしながら作業してください」と宮田さんに促され、研修生は自らの身の上などを語り合いながら、和気あいあいとカボスを切り取っていた。

みんなでカボスの収穫
みんなでカボスの収穫
カボスの収穫
カボスの収穫

6次産業は「工夫」が重要

 研修では「座学」の時間もあり、ドリームファーマーズのことや「半農半X」などの説明があった。日程の関係で講義は聞けなかったので、事前に宮田さんに話を聞いた。

 「ドリームファーマーズは6次産業の会社。まず1次(生産)、2次(加工)、3次(販売)でやってきた『工夫』の話をします。ぼくらの経営理念は『農家のチカラで農村イノベーション』。農泊やこうした(研修生の)受け入れを積極的に行う中で、例えば商品開発や工夫のポイントを説明します。1次産業でどうやっていいものをつくるか。従業員を雇って給料を払うにはどうしたらいいか。いずれも工夫が必要です。夫婦だけの農家など家族経営だけでなく、企業経営にするためにはどうしたらいいかを話します」

 新型コロナウイルスの感染拡大は安心院にも深刻な影響を与えた。以前は中国、台湾、韓国などからも農泊の旅行者が訪れてきたが、コロナの影響でほとんどなくなった。

 ただ、宮田さんは「コロナによって食や農村に興味を持つ人が増えてきた。『農村なら安全』と農林水産省が言ってくれたおかげで、農村に目を向けていなかった人が目を向けて良さを分かるようになってきた」とも指摘した。

 「しかし、こちらが情報を発信しても、農家の高齢化が進んで、うまく受け入れできない場合もある。新しい形の農泊を提案しないといけない。ここでも工夫が必要」と語る。

「心のせんたく」、農泊体験

 今回、筆者は11月19日と20日、安心院で2軒の農泊を体験した。

農泊、「百年乃宿ときえだ」の室内
農泊、「百年乃宿ときえだ」の室内
農泊、時枝仁子さん(左)と哲朗さん

近くの温泉に送り迎えしてもらった後、食事は農泊先のご夫婦と一緒。1軒目の「百年乃家ときえだ」は、築約130年の古民家で、頑丈な木造の日本家屋だった。部屋数は多く、宿泊用の2階の部屋も広々としていた。この家の主婦でもある時枝仁子さんがつくる料理は、すべて季節や自然の味を生かした手作り。関あじの刺身、ハモなどの天ぷら、田楽、茶わん蒸し、ビーフシチュー、かちえびちらしずし(宇佐市の郷土料理)など豪華な料理が並んだ。ハモは秋でも近くで獲れるという。シチューも市販の素は使わない。25年前、農泊を始めた頃の話を聞きながら、料理を楽しんだ。

農泊、夕食。アジの刺身、ハモの天ぷら名など
農泊、夕食。アジの刺身、ハモの天ぷらなど

「農泊のおもてなしは、女性が主役で、男性はその補佐役」と仁子さん。当初、お客さんとしても、他人を家に泊めることに義父は猛反対した。それを押し切って農泊を始めると、お客さんが義父の話を楽しく聞いてくれたことから、義父は農泊推進者に変わり、欧州にもグリーンツーリズムの視察に出かけるほどになったという。

よもぎ餅をつくる時枝夫妻(農泊)
よもぎ餅をつくる時枝夫妻(農泊)

 2軒目は、「あたしんち」(代表・丹生町子さん)という民家に泊まった。近くの露天風呂につかった後、夕食はジビエ料理が登場。シカの焼き肉、イノシシの肉が入ったシシ汁を味わった。栗ご飯や裏の山で採れるシイタケも絶品だった。

農泊2日目「あたしんち」の丹生町子さん(右)と猛さん
農泊2日目「あたしんち」の丹生町子さん(右)と猛さん
農泊、2日目シカの肉
農泊、2日目シカの肉

 翌日朝、ご主人の丹生猛さんの車で近くの山へシイタケ狩りに出かけ、原木からの収穫を体験した。そこには、近所の専門家が仕掛けた、イノシシを捕まえるわなもあった。猛さんがエサをセットして確認に出かけ、イノシシの捕獲を報告すると、解体された肉を分けてもらえるという。

イノシシを捕らえるわな
イノシシを捕らえるわな

 一方、研修生は期間中、ホテルに宿泊していたが、1泊だけ三グループに分かれて農泊を体験した。後で研修生に聞くと、「ごはんがおいしく、楽しくて良かった」「予想以上に楽しかった。また行きたい」「(農村の人に)出会った瞬間から実家に帰るような安心感と温かさがあり、何てことはない会話や手作りの食事で、本当に心が落ち着きました。農泊は心の洗たく、その通りでした」―などの声があった。筆者も同じ思いを共有する。

「移住を考えています」

 研修生数人に、参加した経緯や今後の展望などを聞いた。

匿名希望Yさん(名古屋市在住、41歳)

―プログラムへの参加のきっかけを教えてください。

 飲食店で働いていましたが、コロナの影響で閉店し、家族らと相談する中で農業の話になったからです。

―実際に現地で参加してみて、いかがでしょうか?

 今まで夜の生活の方が長く、昼間に皆で力を合わせて働くことはありませんでした。体はきつかったけれど、いい時間を過ごせ、達成感がありました。

―これからやっていきたいこと、展開していきたい方向性は?

 移住を考えています。できれば安心院がいいです。

加藤芽依さん(東京都在住、26歳)

―プログラムへの参加のきっかけを教えてください。

 将来、自分のお店(ケーキ屋)を開いた時に、農家の人と直接やりとりできたら嬉しいと思い、日本の農家を巡ろうと思っていました。どうしたら良いかわからずにいたときに、「半農半X」という、少し考えていたことと角度の違う今回のプログラムを見つけ、申し込みました。

―実際に現地で参加してみて、いかがでしょうか?

 体力面や天候、農業の難しさをたくさん知りましたが、メンバーのチームワークが本当に良く、チームでやることの素晴らしさを知りました。農家の人手不足や給与の面は問題ですが、やはり人数がいた方が良いと思いました。

―これからやっていきたいこと、展開していきたい方向性は?

 まずはやりたいと思うことをすべて経験して、力にしていきたい。ゆくゆくは田舎で、地域の皆さんが朝コーヒーとパンを食べて、ぼーっとできる空間をつくりたいです。

匿名希望Kさん(福岡市在住、50歳)

―プログラムへの参加のきっかけを教えてください。

 以前から漠然と農業や田舎暮らしに興味があったものの、現実的には農業だけで生活するのは難しいと思っていました。今回、「半農半X」というテーマで募集されていたので、何かヒントがあるかもと思い参加しました。

―実際に現地で参加してみて、いかがでしょうか?

 農泊やグリーンツーリズムの企画、あっせんにも興味が湧きました。農泊については、座学や受け入れ先のご夫婦のお話を聞けて良かったです。定年退職後でも農泊で何かできるのでは、と明るい気持ちになりました。

―これからやっていきたいこと、展開していきたい方向性は?

 すぐに移住などはできませんが、農泊やグリーンツーリズムに関わる仕事ができたらいいと思います。自然の中で無心に身体を動かして仕事をするという体験は心が洗われるようで、心の疲れた大人にも是非体験してほしいです。

匿名希望Eさん(奈良県在住、51歳)

―プログラムへの参加のきっかけを教えてください。

 コロナ過で農業に興味を持ち始め、農作業のボランティアに参加するようになりました。夫の実家が研修先と同じ地域でもあり、応募しました。

―実際に現地で参加してみて、いかがでしょうか?

 最初は単純に思えた農作業も、技術と知識が必要と気付き、プロに教わることが大事だと思いました。ビニールハウスのビニール撤去や柵作りを通して、仲間と力を合わせる大切さを学びました。ビニールハウスの上から見た景色がとてもきれいで感動しました。

―これからやっていきたいこと、展開していきたい方向性は?

 職業訓練などを通して基礎から農業を学びつつ、自分の「X」を見つけていこうと思います。

西川祐介さん(神奈川県在住)

―プログラムへの参加のきっかけを教えてください。

 都会の生活より田舎の生活がいい、自然に触れてみたいと思っていて、それなら農業がいいかなと考えました。

―実際に現地で参加してみて、いかがでしょうか?

 予想していましたが、農業は甘くないなと思いました。ただ、肉体的、精神的にも、デスクワークのストレスとは違った、心地よい疲れがあり、充実感がありました。

―これからやっていきたいこと、展開していきたい方向性は?

 農業と農泊を見たかったのですが、私の仕事としては農泊というサービスの方向かなと思っています。

(了)

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