北信州の城下町で観光とリンゴ栽培を学ぶ~長野県・飯山市

飯山市南東部の菜の花公園からの飯山市の眺め
飯山市南東部の菜の花公園からの飯山市の眺め

 長野県の最北部に位置する飯山市は、かつて上杉謙信が築城した飯山城の城下町として栄え、今も多くの寺社が残る。市の中心部を流れる千曲川をはじめ、当地には詩情を感じさせる風景が多く、映画「阿弥陀堂だより」でも四季折々の飯山の美しい自然が描かれた。スキー場や新潟県との県境にもなっている関田山脈の尾根沿いに整備された全長110キロに及ぶロングハイキングコース「信越トレイル」を訪れる人も多い。米、リンゴ、キノコ、アスパラガス、ジャガイモ、花きの栽培など1次産業も盛んな当地で、農家民宿に滞在しながら観光や農業実務を学ぶ現地研修を取材した。研修は2021年11月3日から9日までのおよそ1週間で、参加者(男性4名、女性3名)は、観光業や郷土料理作り、リンゴの収穫などの実務を体験した。

日本棚田百選「福島棚田の里」
日本棚田百選「福島棚田の里」
信越トレイルに続く関田峠森林浴歩道
信越トレイルに続く関田峠森林浴歩道

リンゴ栽培に適した冷涼な気候

 飯山市は日本有数の豪雪地域で、年間の平均気温が11.3度(1991~2020年:気象庁)という冷涼な気候はリンゴの栽培に適している。

 北陸新幹線飯山駅から徒歩5分の距離にある塩崎農園の塩崎三郎さんは、青森県でのリンゴ栽培の研修中に「ふじ」の開発に携わり、苗木を飯山へ持ち帰って普及させた人物だ。今や「ふじ」は日本を代表するリンゴのブランドとなった。

 三郎さんの息子で同農園の代表である塩崎誠さん(57)は、「『サンふじ』(袋をかけずに栽培した『ふじ』)、秋映、シナノゴールド、シナノスイート、紅玉、王林など計13の品種のリンゴや巨峰、シャインマスカットなどのブドウも栽培しています。ミツバチなどの虫やヒヨドリの被害、日照時間や雪など注意することが多くて大変ですが、順調に育ったリンゴを多くの方に食べてもらうのは嬉しいですね」と苦労と喜びを語る。

塩崎誠さんと塩崎さん所有のりんご畑
塩崎誠さんと塩崎さん所有のりんご畑
収穫を待つ太陽の直射日光で赤く色づいた「サンふじ」
収穫を待つ太陽の直射日光で赤く色づいた「サンふじ」

飯山の観光 移住者の増加

 研修の初日はまず、参加者がお互いの自己紹介をした後、座学で一般社団法人信州いいやま観光局の柴田さほりさんから飯山市の地域内観光の取り組みについてレクチャーを受けた。

 柴田さんは、四季が明瞭な気候、千曲川河畔の一面に菜の花が咲く美しい風景、年に1度しか栽培をしないため畑の土壌が疲れていないこと、積雪が多い一方、雪解けの水が美味しいことなど、農業を含めた飯山の観光の特徴を説明した。

 参加者からは、「移住者は増えていますか?」(回答:増えている。飯山市は移住先の人気ランキングで上位にいる。市役所の移住定住の担当の方の努力が大きい)「長野県では他ではどこが人気ですか?」(回答:軽井沢の人気は別格。コロナ禍で移住者がさらに増えている)などの質問が出た。

飯山の観光のレクチャーを受ける参加者
飯山の観光のレクチャーを受ける参加者
飯山の観光名所の1つで樹齢が500年を超えるとも伝えられる「神戸の大イチョウ」
飯山の観光名所の1つで樹齢が500年を超えるとも伝えられる「神戸の大イチョウ」

農家民宿で郷土料理作り

 飯山の観光の取り組みを学んだあとは、中澤憲一さん(54)が経営する農家民宿で郷土料理の笹(ささ)寿司の手作りを実習した。笹寿司は、クマザサの葉の上に酢飯と具材や薬味を載せた長野県北部の代表的な郷土料理で、川中島の合戦に出陣した上杉謙信に飯山の村人が献上したのが始まりだと言われている。

 中澤さんの夫人の指導のもと、参加者はササの上の酢飯にゼンマイ、クルミ、紅ショウガ、キャラブキ、錦糸卵を載せ、ラップの上から手で押して形を整えた。完成後、参加者は自分が作った笹寿司を試食。「具材は甘めで酢飯と合って美味しい」との声が上がった。中澤夫人によると「具材にきまりはないですね。各家庭でいいと思う材料を使っています。ササには殺菌作用があり保存に向いていますが、葉の横が鋭いので作る時には手を切らないよう注意がいります」ということだった。

 中澤さんが経営する農家民宿は戸狩温泉スキー場に面しており、昭和初期に同スキー場ができた際に開業し、中澤さんは三代目になる。スキー場脇にある畑でお客さんに出すミニトマト、ナス、ジャガイモ、ピーマン、ホウレンソウ、ハーブ、イチゴなどの野菜や果物を栽培している。「1980年代をピークに暖冬やレジャーの多様化でスキー客は減少していますが、信越トレイルのトレッキングに来るお客さんも多く、お客さんの8割はリピーターです。コロナが早く落ち着いてほしいと思います」と、中澤さんは期待する。

笹寿司を作る参加者
笹寿司を作る参加者

笹寿司を作る参加者

戸狩温泉スキー場横の畑で参加者に野菜や果物の栽培について説明する中澤憲一さんと参加者
戸狩温泉スキー場横の畑で参加者に野菜や果物の栽培について説明する中澤憲一さんと参加者

リンゴの手入れと収穫作業

 農業の実務体験では、塩崎誠さんが経営する塩崎農園でリンゴの手入れや収穫を行った。塩崎さんの指導のもと、参加者は1本の木を3~4人で担当し、袋を掛けない育て方をする「サンふじ」の手入れを行った。

 実の全体に日光をまんべんなく当て赤くなるように、日光をさえぎる葉を除き、実を回す作業を行う。参加者からは「実を回すと木から取れるのではないかとひやひやした」との感想がもれた。

 その後、収穫の時期を迎えたリンゴの木から実を一つひとつ、丁寧に収穫作業を行った。農園のスタッフから「へたは形よく残してください。価値が変わります」と注意があった。昼食時には採ったばかりのリンゴがふるまわれ、「採れたては本当に美味しいですね」と参加者はみんな驚いていた。

塩崎誠さんのレクチャーを受ける参加者
塩崎誠さんのレクチャーを受ける参加者
リンゴの手当てをする参加者
リンゴの手当てをする参加者
収穫したリンゴ
収穫したリンゴ

農業を飯山でやってみたい。

 3人の参加者に今回の研修に参加した経緯や今後の展望などを聞いた。

武藤由則さん(神奈川県出身、53歳)

―プログラムへの参加のきっかけを教えてください。

 今回の研修はネットで知りました。夫婦で就農を考えていたので、勉強のために研修に参加しました。

―実際に現地で参加してみて、いかがでしょうか?

 今日のリンゴの手入れや収穫作業などいろいろ勉強になったと思います。

―これからやっていきたいこと、展開していきたい方向性は?

 実際に農業を飯山でやってみたいと思うようになりました。飯山の観光にも興味があり、農業と観光を結び付けられないかと考えています。

山本和泉さん(東京都出身、36歳)

―プログラムへの参加のきっかけを教えてください。

 特に農業には縁がありませんが、ハウス栽培などに興味があり、研修に応募しました。

―実際に現地で参加してみて、いかがでしょうか?

 リンゴにこれだけ手間がかかっていて、こんなにたくさんの種類があるとは知りませんでした。

―これからやっていきたいこと、展開していきたい方向性は?

 短期アルバイトの就農や農業で自分でも作れるものはないか模索しています。

インタビューした参加者
インタビューした参加者

鈴木早苗さん(仮名)(静岡県出身、45歳)

―プログラムへの参加のきっかけを教えてください。

 就農したいと思っていますがきっかけがなく、自己学習では難しいので研修に応募しました。

―実際に現地で参加してみて、いかがでしょうか?

 みかん栽培の手伝いをしていたので、同じ果樹のリンゴの体験ができて参考になりました。

―これからやっていきたいこと、展開していきたい方向性は?

 友人からトマト農園を一緒にやらないかと誘われており、今回の体験を生かして私が生産を担当し、友人が卸の担当で運営しようと考えています。

(了)

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