―この事業について、全国農協観光協会さんならではの特徴はありますか?
全国10カ所の研修先に、それぞれ10名程度の方に行っていただき、およそ2週間、農業とその地域を学んでいただくという研修事業です。
私どもでは、去年から全国10カ所で地域課題をICTの力を使いながら解決しようという取り組みを行っております。「スマート定住強化地域」といいまして、例えば高齢者の見守りや鳥獣害対策として、センサーを付けて無人で監視してみるといった実証実験を、農林⽔産省、総務省、経済産業省と協働して取り組んでおります。そうした地域と交流していただくことや、就農して住んでいただくことを目標としております。
―農業体験するのはどういう地域ですか?
山形県鶴岡市に温海という地区がございまして、高齢化率が非常に高く、70歳でも若い方というところです。そこでは皆さんの健康を維持のために、見回りや、ZOOMを使った健康体操をするなど、いろいろ取り組まれています。
研修の時期が、焼き畑で作る「温海かぶ」の収穫期に当たっておりまして、タイミングが良ければですが、かぶを収穫して、そこにスギの苗を植えるというプログラムも考えています。
作業は大変ですが、都会の人が体験するという意味では、傾斜地の焼き畑は、全国的に見ても貴重だと考えております。
また、北海道の岩見沢市は特に新規就農に力を入れています。
三重県多気町というお伊勢参りで栄えた宿場町では、白菜を収穫して独自に加工する取り組みを進めています。京都府の京丹後市という丹後半島にある町では空き家が増えているのを可視化する研修など、地域ごとに特色のある研修となっています。
―参加希望者はどういう層が多いのでしょうか?
幅広い世代にご参加いただきたいと思っておりまして、マイナビ農業さんのサイトに「あぐトリ」という募集ページを作っていただいております。地域の特徴を記事にしまして、ここへ行ってみたいと思うところに応募していただくという流れです。特に、就職氷河期の方の就農の応援と、もちろん、若い方で就農したい方にも、チャレンジしていただきたいと考えております。
お仕事されている方で2週間の研修はなかなか難しいかとも思いますが、いろいろお声を伺っている中で、実はもうこの冬ぐらいから就農の準備をしたくて、ちょうど仕事を辞めますという方もいらっしゃいました。コロナ禍で、お仕事をどうしてもお休みせざるを得ないという方もいらっしゃいます。特にそういう方は、ご自身の人生の中に新しい切り口が出てくるのではないかと考えております。
都会にいれば何百万、何千万人のうちの一人ですが、過疎のエリアでは、その一人の力が集落の大きな力になることを実感できると思います。お互いが出会うことで、受け入れる地域の側も、地元の「オリジナル」とは何かを考えることになると思います。
また、地域や農業にとって女性の存在感というのは、いろいろな意味で非常に重要です。女性にもぜひチャレンジしていただきたいと思います。
―実際に就農するとなった場合の支援はありますか?
今回の事業では、地元の自治体が窓口になっているところも多いので、地域で就農する場合、現地の農業委員会さんや、JAさん、現地のNPOにおつなぎする支援はさせていただきます。
―研修を受けた方と農村との関わり方のイメージはどのようにお考えでしょう?
農業は地味な作業の連続です。研修には収穫の片付けとか、用水路の手入れとか、そういった農業の日常を感じていただけるメニューを組み入れています。
専業農家にならなくても、最近よく言われております「関係人口」、やはりその地域とご縁を結んでいたことによって、「お手伝いに毎年来るね」とか、「収穫やお祭りの時はまた来るね」という人口が増えてくれればいいと思います。また、その中から定住してみようとか、もうちょっと濃い付き合いしてみようと言う人が出てくれれば、この事業の目的が達成されるのではないかと考えております。
―令和時代、ウィズコロナ時代に求められる農業・農村での人材はどのようなものでしょう?
これからは単なる農業だけでなくて、「半農半X」と言われるような関わり方もあると思います。プロデューサー、デザイナーのように、これまでとは違う切り口で、農業とほかの事業をつなげるチャンスがあると考えています。
それに、農村でも結構スマホを使いこなしていらっしゃる方が多くて、スマホを通じてコミュニケーションしたり、アプリ作ってみたりという方もいます。そういう新しい分野こそ、活躍のチャンスがあると感じております。
研修を受け入れる側も、参加される方を単なる労働力ではなくて、地域と関係することによってさまざまな化学変化が起きることに期待していると思います。お互いの存在を実感できる関係が築けたらいいですし、実際、そういう動きは日本中でも出てきておりますので、もっと広がって地域が活性化してくるようなそんな時代が来るのではないかと考えています。
―都会の人が感じる農村で暮らす魅力とは?
農村の魅力は、自然はもちろんのこと、本質的なことを考える「すき間」の時間ができるということにあるのではないかと思っています。
コロナ禍の中で広まっているワーケーションについても、どういう方が多いか数字を見てみると、ご自身で事業されている方とか、技術を持っている方が結構いらっしゃいます。
やはり都会とは違う環境に身を置いて、違う時間の流れの中で、考えを深めたり、新しい切り口を見つけたり、そういうためには田舎ならではの過ごし方も魅力だと考えております。
―農業・農村とSDGsをどうとらえていますか
SDGsというのは誰も取り残さないということです。農業を通じて一人の役割が本当に多様で、個性にあった働き方があり、それが結集することによって、また集落としても活性化していく、それが都市と交流することによって生まれるのではないかと思います。一人一人の力をどれだけ引き出していけるかというのが、SDGsとの関わりではないでしょうか。
今は都市での生きづらさが浮き彫りになっていますが、都会の人が農村に来ることで、活気のなかった集落に希望が持てるようになる。地域に喜ばれる価値があると考えています。(了)