千葉県香取市は県北東部に位置し、県庁所在地の千葉市から約50キロの距離にある。2006(平成18)年に佐原市、小見川町、山田町、栗源町が合併し、誕生した。人口は約7万人(24〈令和6〉年11月)。
北部の利根川流域の水郷や南部の山林や畑が広がる景観は、日本の原風景を感じさせる。香取神社総本社の香取神宮や日本で初めて実測で日本地図を作成した伊能忠敬の旧宅、江戸や昭和の商家や土蔵が軒を連ねる佐原の町並み(国重要伝統的建造物群保存地区)など、歴史や文化が豊かなところだ。
産業は農業が中心。米の生産量(23年産)で首都圏ながら都道府県ランキング9位の千葉県で、出荷量は県内1位。サツマイモ、ゴボウ、トマト、ナシ、ブドウなど特産品も多い。
当地で行われた株式会社和郷主催の「WAGO Agri College」農業基本講座(第2回)を取材した。同講座は全国7カ所の現地研修の前に合同で農業の基本を学ぶもので、テーマは「就農」と「農村と都市の交流」。
研修は24(令和6)年の9月26~28日までの3日間で、38人(男性18人、女性20人)が参加。和郷社長らによる基調講演や就農事例の紹介、新規就農研究の座学、生産者施設や農園リゾート、冷凍・カット工場の視察、生産者との意見交換などの研修メニューを通じ、農業の役割や魅力、就農の方法、消費者の視点や都市住民への貢献について理解を深めた(取材は26、27日に実施)。
農業の基本を学ぶ 木内和郷社長の基調講演
研修生は香取市小見川支所に参集し、最初に座学で農業の基本を学んだ。
木内博一・和郷代表取締役社長は基調講演で、一農家から株式会社和郷と農事組合法人和郷園を設立し、冷凍・カット野菜の販売・流通、リサイクル事業、植物工場、農園リゾートの運営など、農業が中核の多角経営で年商70億円の企業体を作り上げるに至った経緯を語った。
木内氏は1989(平成元)年に農林水産省農業者大学校を卒業後、専業農家の実家で就農し、サツマイモ、ゴボウ、ニンジン、ジャガイモなどを栽培。「マーケットに寄り添うやり方をやればまだまだ拡大できる」と農業に可能性を感じ、大手スーパーへ泥を落としてカットしたゴボウの納品を提案。複数のスーパーと大きな契約を結んだ。
同氏は、農家は「お客さん目線で農作物を作る」ことが大切で、「私たちは食材製造業。野菜は旬の時に作れば栄養価も高いし量も採れる」とアドバイス。100戸の農家集団の農事組合法人和郷園の代表としては「農業者が生産したものを無駄なく消費者の目線で提供したい」と語った。農業の未来については「世代交代を早くした方がいい。引き継ぐものが多くあり、人材育成をしなくてはいけない」と警鐘を鳴らし、講演を終えた。
木内氏は、千葉県農林水産功労者賞や「千葉元気印企業大賞」地球環境貢献賞など多数の受賞歴がある。
就農事例を紹介 佐藤和郷園理事より
続いて佐藤正史・農事組合法人和郷園理事が、同園の就農事例を紹介した。同氏は佐藤農園の代表で以前は葉タバコを栽培していたが、現在は近隣の多古町の30アールの農園でトマトを栽培、和郷園へ出荷している。以下は主な内容。
農園リゾートを視察
高橋事業統括取締役より施設説明
座学の後は、関連会社の株式会社ファームが運営する「農園リゾートTHE FARM」に移動し視察した。
同施設は、日本の農村に自然、文化、交流を楽しむ滞在型余暇活動の文化を根付かせようと設立。温浴施設を皮切りに、貸農園、季節野菜の収穫体験、収穫した野菜のバーベキューなど農園を活用したコンテンツを提供。コテージやグランピング、キャンプなどの宿泊、農園内の野菜を使ったカフェでの食事、山林や地形を活用した遊具のジップラインやブッシュクラフト(野営)など、年間を通じて多彩なメニューを提供している。
研修生は、高橋義直・和郷ナレッジバンク事業部事業統括取締役から各施設のコンセプトや運営の苦労などの話を聞き、耕作放棄地の解消と周辺の山林の活用、都市住民と農村をどのように交流させ地域を活性化させてきたかを学んだ。
高橋氏は、「ファーム全体のコンセプトはドイツのクラインガルテン(滞在型市民農園)を参考にし、設立10年で10ヘクタールの施設に年間30万人(野菜の収穫体験は年間4万人)が訪れるまでになりました」とこれまでの道のりを振り返り、「無名だったファームが有名になったのは、当時全国でも珍しいグランピングを開発、始めたことです」と語った。飛躍の契機となったグランピング施設は大人気で、予約待ちの状況だという。株式会社ザファームは、2019(令和元)年に“農を基軸に観光と融合した6次産業化の新たなビジネスモデル”として農林水産省6次産業化アワード食料産業局長賞を受賞している。
生産者視察 トマト栽培を見学
生産者の農場見学は、和郷ファーム株式会社運営の高萩農場で行われた。農場は9000平方メートルの敷地にあるハウス内で高糖度フルーツトマトや大玉トマトを栽培し、大手宅配ピザ店や著名フランス料理店などへ提供している。栽培担当の井原務さんから、「この農場では大玉トマトとバジルを栽培しており、水の管理に注意して高糖度のトマトの生産の割合を増やしています」などの説明を受けた。
冷凍工場を視察
続いて和郷直営の冷凍工場に移動し、同社加工事業部の増渕一実部長から最初に座学でレクチャーを受けた。この工場では、ホウレンソウ、サツマイモ、小松菜、ブロッコリーなど年間約1000トンの冷凍野菜を生産し、生協や学校給食向けに提供している。
増渕氏は、「生産者は需給バランスが向上、消費者にとっては(生野菜に比べ)量が多く価格が安い、旬の時期に栽培された野菜を使用するので栄養価が高くうま味がある」など冷凍加工のメリットを説明。冷凍加工されたホウレンソウとジャガイモを試食した研修生は、「加工感はないです。素材の味が強い」と感想を述べた。
座学の後は、加工施設内で同部木内祐介主任から作業工程の説明を受けた。
「野菜は洗浄後、ブランチング(冷凍の前処理の工程。短時間過熱し冷却する)し、成長を止めます。1日4~6トン、ホウレンソウやサツマイモ、ブロッコリーを中心に冷凍加工し、ホウレンソウは年間400トン、8000パック出荷します」(木内氏)。近年サツマイモが人気で需要が増えているという。研修生からの「野菜に付いた泥などはどのように対応を?」との質問には「異物混入を避けるため収穫する際に地面から5センチ上の所で(野菜を)カットするという和郷のルールを生産者に守ってもらっています」(同)との回答だった。
カット工場を視察
この日最後の研修は、冷凍工場から和郷本社に隣接するカット工場に移動し、高橋取締役から同工場の運営についてレクチャーを受けた。カットされた野菜は、大手スーパーチェーンや学生生協などへ出荷されている。
高橋氏は、「朝に受けたオーダーは、夕方には出荷します。大手スーパーは店舗ごとに注文の内容や量が異なり、個別にセットして出荷します」と説明。きめ細かいオーダーメードと迅速な対応で大きな売り上げになっていると説明した。「生産者に注文する納品量はどのように調整していますか?」(研修生)の質問には、「過去のデータから見込みを立てて注文している」と回答した。
研修生に聞く
宮田 沙羅さん 埼玉県在住
赤井 由紀子さん 埼玉県在住
奥田 秦乃さん 東京都在住
志賀 美咲さん 福島県在住
和氣 昭一さん(52歳) 東京都在住