若狭で漁業と地域おこしを学ぶ―福井県高浜町

若狭和田ビーチ 国際環境認証「ブルーフラッグ」をアジアで初めて取得
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室町幕府三代将軍足利義満が訪れたといわれる奇勝「明鏡洞」
室町幕府三代将軍足利義満が訪れたといわれる奇勝「明鏡洞」
中山寺からの眺め
中山寺からの眺め

 福井県高浜町は県の最西端にあり、人口は約1万人(2024〈令和6〉年1月)。若狭湾に面し、海岸線沿いには海水浴場が八つあり、かつては有数のリゾート地として知られた。漁業で栄えた町で、古来より若狭湾で捕れた食物を朝廷に献上。その中でも「若狭ぐじ」(アカアマダイ)は最高級の食材とされ、今も高級料亭などで提供されている。 日本ウェルビーイング推進協議会の「TUNAGUプロジェクト」(1次産業ワーケーション)として、漁業や6次産業化、地域おこしを学ぶ現地研修を取材した。24(令和6)年の1月15~21日までの7日間で、4人(男性3人、女性1人)が参加。研修生は新商品開発やイベント運営、小学校の総合学習への参加、漁協組合長の座学や大型定置網漁の水揚げの見学など、多彩な研修をこなした(取材は15~17日に実施)。

オリエンテーション

研修拠点の「UMIKARA」
研修拠点の「UMIKARA」

 研修生は高浜漁港脇の6次産業施設「UMIKARA」で自己紹介を行った後、受け入れ先の地域商社「まちから」代表取締役の名里裕介さんと新商品開発担当の森川さおりさんから、活動内容の説明を受けた。 高浜町は漁業が盛んだったが、近年は漁獲量と漁業就業者が減少し、魚価も低迷。収入も減り人手も不足するなど、厳しい局面にある。現状を克服し町を再興しようと漁業関係者と行政が連携。「高浜町海の6次産業化プロジェクト」が立ち上がった。 プロジェクトリーダーの名里さんは、UMIKARAと連携する水産加工販売会社を設立。「水揚げが多いのに利益を上げられない状況を何とかしたい」と低未利用魚の活用や定期イベントの開催(毎月第1土曜、名称「昼市」)などを通じ、水産加工品の販路拡大や新産品の開発などによる高浜の水産業復興に取り組んでいる。 森川さんは、低未利用魚で利用頻度の低いトップ3のシイラ、サゴシ(サワラの幼魚)、ツバス(ブリの幼魚)を利用した新商品の開発に奮闘。シイラを使ったハンバーガーなどを作りUMIKARAで販売している。 名里さんから「低未利用魚を加工した新商品のアイデアを出してもらいできれば商品化したい」との要望が出され、研修生がそれぞれ考案。全員で協議した結果、シイラを使ったウナギのかば焼き風のはんぺんと、スープカレーを試作することに決まった。

説明を聞く研修生(前列右4人)
説明を聞く研修生(前列右4人)
シイラを使ったハンバーガー
シイラを使ったハンバーガー
新商品を考案
新商品を考案
夕食に若狭高浜漁業協同組合の大黒芳信組合長から寒ブリ料理が振る舞われた
夕食に若狭高浜漁業協同組合の大黒芳信組合長から寒ブリ料理が振る舞われた

若狭高浜漁協の現状

漁具や市場など見学

 研修期間中に大黒組合長より夕食に招待され交流を深めた若狭高浜漁協を見学。たくさんの漁具が収められている共同漁具倉庫内で大黒組合長から漁法や漁具の使い方などの説明を受けた。 高浜では、大型定置網、定置網、刺し網、はえ縄などで漁をしており、若狭ぐじの漁には刺し網とはえ縄を使う。アカアマダイの500グラム以上を若狭ぐじと呼び、800グラム以上は「極」という最高級のブランドになる。研修生から、各漁法の仕掛けや漁の苦労、コストについて質問があり、大黒組合長は「魚価が下がり漁獲量が減少している一方で、網や縄などの漁具や燃料代は上昇している」と水産業の現状を伝えた。 続いて同行した高浜町産業振興課の笹部孝行さんの案内で漁協内の市場や施設などを見て回った。水揚げされる魚種の変化について笹部さんは「以前は多かったサバが今は捕れない。一方でサワラが捕れるようになった」などと研修生の質問に答えていた。

網の説明をする大黒組合長(中)
網の説明をする大黒組合長(中)
全員で記念写真
全員で記念写真
市場を見学
市場を見学

昼市企画会議 試作品作り

 次の「昼市」の運営を協議する企画会議で研修生が考案した新商品案が了承され、試作品作りに取り掛かった。 研修生たちは地域商社まちから経営の「はもと加工販売所」の調理室で、新商品の材料の仕込みと調理を分担し、それぞれの作業に入った。 はんぺん(通称「ほぼウナギ」)は、シイラの切り身をすり下ろし、ミキサーでメレンゲ、豆腐、かたくり粉、塩と混ぜて蒸し、ノリを巻き砂糖としょうゆでウナギのかば焼き風に焼く。 スープカレーは、鍋で湯がいたシイラの切り身とジャガイモやニンジン、パブリカ、トマトなどの野菜をオープンで焼き、すり下ろしたニンニクとショウガと一緒にコンソメスープに入れる。カレー粉を足し、最後に湯がいたオクラを入れて完成。 研修生たちは調理を初めて一緒に行ったとは思えない円滑なチームワークで作業を進め、試作品が完成。試食はどちらも好評だった。「ほぼウナギ」を考案し調理した研修生は、出来具合に満足しながらも「豆腐の割合を少し抑えた方がよかった」と改善点も出していた。
分担して試作品作りに取り組む研修生ら

分担して試作品作りに取り組む研修生ら(上2枚)
分担して試作品作りに取り組む研修生ら(上2枚)
完成した試作品のはんぺん「ほぼウナギ」
完成した試作品のはんぺん「ほぼウナギ」
完成した試作品のスープカレー
完成した試作品のスープカレー

定置網漁の水揚げ

 大型定置網漁の水揚げの見学は、船が漁から戻るタイミングに合わせ高浜漁港へ。同町の笹部さんによると、高浜の定置網の特徴は少量多品種で時期によって魚種も変わる。水揚げの様子を初めて目にした研修生は「こんなにたくさんの魚が捕れるとは」と興奮気味。この日はブリ200本、マグロ1本、大漁のイカ、アジ、サワラなどが揚がった。

水揚げの様子
水揚げの様子
水揚げの様子(上3枚)
水揚げの様子(上3枚)

小学校の総合学習に参加

 高浜小学校では2020(令和2)年度から、児童が地元のまちづくり団体「高濱明日研究所(アスケン)」(名里さんが共同代表)と連携。「コドモノ明日研究所」を組織し、地元の課題解決を図る「地域とつながる探究的なふるさと学習」に取り組んでいる。魚が産卵に使う藻場を食べ尽くすため駆除し廃棄するムラサキウニをランプに活用した商品は発売から1年間で500個を売り上げるなど、目覚ましい学習成果を挙げている。 研修生は同校で行われている総合学習の授業に参加。名里さんの指導によりこの日のテーマ(海から来たゴミの活用)を基に営業、広報、製造、デザインの4班に児童が分かれて学習する様子を見学した。班を回って児童への助言なども行った研修生たちは、「うらやましい。大人になった時にとても役立つと思う」「大人から見ても役割分担ができていてすごい」と感心しきり。高浜町出身の朽木史昌校長は「児童が自ら考えて進めることを後ろから支援していきたい」と話した。

活動を見守る研修生
活動を見守る研修生(上2枚)
活動を見守る研修生(上2枚)
全員で記念写真
全員で記念写真
大人気のウニランプ
大人気のウニランプ

研修生に聞く

  • 研修に参加した経緯を教えてください

波多腰 太さん(50歳)福岡県在住

―地元で港の開発を担当しており、環境が似ている高浜町の港開発の様子を見学したいと思った。

宮崎 智子さん(50歳代)大阪府在住

―退職後のキャリアを考えている。地方や人とつながり社会の役に立ちたいと思い参加した。

立場 定さん(48歳)東京都在住

―勤め先の役員からこの研修を紹介され、意義があるテーマなので参加したいと思った。

鈴木 直人さん(44歳)

―今の仕事は安定しているが、やりたいことを探していた際にこの研修の説明会で話を聞き参加を決めた。

  • 研修に参加した印象は?

波多腰さん

―勉強になる。地域の課題を行政が理解していると思った。

宮崎さん

―テーマがはっきりしていて意欲のある人が来ている。皆さん積極的に動いて意識が高い。刺激を受けている。

立場さん

―(1次産業の)現場に来ると建物内で考えていることとやはり違うと感じた。

鈴木さん

―地域の人と知り合い他の参加者から刺激を受けている。

  • 今後の展開について

波多腰さん

―地元で担当しているまちづくりを早く自走させ、利益を出せるところまで来たら若い人にバトンを渡したい。

宮崎さん

―今まで培ってきたことや社会人としての経験を生かし、社会に貢献したい。

立場さん

―仕事の幅を広げたい。参加者や高浜町の人とのつながりを大事にしたい。

鈴木さん

―東日本大震災を経験し、防災を勉強しようと思った。以前に同じ研修事業者主催の和歌山県みなべ町の研修に参加して縁が生まれ、3月に同町に移住する予定。当地の人と防災の勉強をやりたい。
(了)