おためし農業.com

オホーツクの大地で1次産業を学ぶ―北海道網走郡大空町

オホーツクの大地で1次産業を学ぶ―北海道網走郡大空町

大空町の観光名所 メルヘンの丘
大空町の観光名所 メルヘンの丘
北海道景観百選の一つ 網走湖女満別湖畔
北海道景観百選の一つ 網走湖女満別湖畔
大空町に隣接する網走市の二つ岩からオホーツク海越しに知床半島を望む
大空町に隣接する網走市の二つ岩からオホーツク海越しに知床半島を望む
 北海道網走郡大空町は道北東部の位置にあり、オホーツク海が近い。人口は6670人(2023〈令和5〉年8月末現在)。2006(平成18)年に女満別町と東藻琴村が合併して誕生した。北は網走市と接し、網走国定公園と阿寒国立公園に囲まれ、メルヘンの丘や網走湖、女満別町湿性植物群落、藻琴山、朝日ケ丘公園など景勝地が多い。田園風景の美しさから、黒澤明監督の映画「夢」の撮影も行われた。町内の女満別空港は、知床半島やサロマ湖など近隣の観光地への交通の起点となっている。

 北海道ならではの広大な丘陵が続く大空町女満別の日進地区で、第1次産業を学ぶ現地研修を取材した。研修は23(令和5)年9月12日から17日までの6日間で、4人(男性2人、女性2人)が参加し、有機栽培のカボチャの収穫やジャガイモの選別作業などの農業体験、食育の座学などを行い、地元の人々とも交流した。

朝日ケ丘公園に咲くヒマワリ 向こうに網走湖が見える
朝日ケ丘公園に咲くヒマワリ 向こうに網走湖が見える
道の駅「メルヘンの丘めまんべつ」 いろいろなイベントが開催される
道の駅「メルヘンの丘めまんべつ」 いろいろなイベントが開催される

農作業体験

カボチャの収穫 ジャガイモの選別

 研修の受け入れ先である株式会社「大地のMEGUMI」の赤石昌志代表取締役社長は、「研修の参加者にはネットの情報と現場の状況の差を理解してほしい。そして現場に来なければ食べられないものを食べてもらいたい。そうすれば観光と農業のコラボになる」と話し、地元の農家に対しては、「研修生と接することで自分たちの生産物がどういうものなのかを知ってほしい。地元農家のスキルアップも図りたい」と、今回の研修が参加者と地元農家双方にとって意義あるものになるよう期待を寄せていた。
 取材当日は天候に恵まれ、北海道の秋晴れの下、大地のMEGUMIが管理する約4.7ヘクタールの畑で、研修生たちはカボチャの収穫に取り組んだ。品種は「月見」「栗豊7」「えびす」の3種で、例年9月から10月にかけて収穫する。

 カボチャは収穫時に専用のハサミでヘタを切るが、ヘタが他のカボチャを傷付けないように2~3ミリぐらいのところまで切除する。成長したカボチャの実はずっしりとした重さがあるが、研修生たちは指導された通りに優しく取り扱い、収穫専用のコンテナに運んだ。重みでカボチャ同士の損傷を防ぐため通常の半分の深さのハーフコンテナを使用する。「作業前は腰に(痛みが)来るかと思いましたが、意外と大丈夫でした」(研修生)。ある研修生の帽子に本物そっくりのトンボが付いており、理由を聞くと「これは虫よけのオニヤンマ(の模造品)です。これを付けておくとオニヤンマの餌である蜂やアブなどの虫が寄ってきません。社員の方から聞きました」(研修生)と教えてくれた。4人の研修生は、この日1日で4.5トンのカボチャを収穫した。

ヘタを切る前のカボチャ
ヘタを切る前のカボチャ
専用ハサミでヘタを切る
専用ハサミでヘタを切る
収穫したカボチャを集める
収穫したカボチャを集める
運搬用のコンテナに入れる 投げ込みは禁止
運搬用のコンテナに入れる 投げ込みは禁止
ヘタの部分は必ず上に向ける
ヘタの部分は必ず上に向ける
カボチャの花
カボチャの花

ジャガイモの選別

 カボチャの収穫の後、大地のMEGUMIの事務所へ移動し、敷地内の施設で選別作業の実習を行った。
 ベルトコンベアーで送られてくるジャガイモを大きさ(小さいものから2S、S、M、L、2L)で選別。規格外の小さいもの、青い部分や傷、カビがあるものを取り除き、それらはでんぷんなどの加工商品となる。品種は、男爵いもを改良した「きたあかり」。
 今年の夏は北海道も酷暑で、ジャガイモの生育に大きな影響があった。社員の黒川淳志さんは、「暑さで腐敗が多かった。将来北海道でジャガイモが栽培できなくなるかもしれない」と心配する。試験的にサツマイモの栽培を始めたという。「気候変動のタームが10年から3年に短くなっています。変動に対応し栽培する野菜も変えていかなければいけない」(赤石社長)
ジャガイモの選別作業をする研修生
ジャガイモの選別作業をする研修生
選別作業を終えてほっと一息
選別作業を終えてほっと一息

大地のMEGUMIの取り組み

有機栽培で「安心」「安全」「おいしい」野菜を

大地のMEGUMIの畑で社員と一緒にカボチャを収穫する研修生たち
大地のMEGUMIの畑で社員と一緒にカボチャを収穫する研修生たち
 株式会社「大地のMEGUMI」は、1989(平成元)年に大空町内の近隣農業者7人で、無農薬、無化学肥料栽培の実証実験を目的に発足し、2009(平成21)年に当初のグループ会社から株式会社に移行した。
 現在の栽培面積は、有機栽培のカボチャ28ヘクタール、ジャガイモ1.7ヘクタール、特別栽培のジャガイモ12ヘクタールとアスパラ0.27ヘクタール。
 販売数量(22〈令和4〉年度)は、生食カボチャ1万7000ケース、加工用カボチャ118トン、ジャガイモは「きたあかり」320トン、「インカのめざめ」11トン、アスパラ3200箱(1箱1.5キロ)、その他加工品800万円の規模となっている。

 活動理念は、「情報公開し消費者と交流する『見える農業』、農業実習を受け入れ食育事業 に取り組む『触れる農業』、出前講義や各種講習会、国際交流事業を実施する『語り合える農業』を目指すため、個人の能力を最大限に生かし、あすの後継者を育成。消費者との触れ合いに努める」というもので、各テーマの事業を積極的に推進している。

 赤石昌志社長は、「子どものアトピーの症状を少しでも軽くできないかと思った。有機栽培は“土づくり”から始まり、安心、安全だけでなく、おいしい野菜を作る一つの手法」と有機栽培に取り組む理由を語る。これらの活動が評価され、大地のMEGUMIは、23(令和5)年度の農林水産省主催第7回食育活動表彰で消費・安全局長賞を受賞した。

赤石社長 事務所の前で
赤石社長 事務所の前で
第7回食育活動表彰で消費・安全局長賞を受賞
第7回食育活動表彰で消費・安全局長賞を受賞

野菜くずの堆肥場

 大地のMEGUMIは、家畜の排せつ物は使用せず、大空町や隣の美幌町の野菜選果場や加工場から無料で提供してもらったブロッコリーやネギ、ナガイモ、キャベツ、カボチャの種わたなどの野菜くずを麦稈(ばっかん)に混ぜ、自然発酵で年間1000トンもの堆肥を作っている。赤石社長は、「野菜くずは廃棄すると費用がかかるので加工場にとっても良い話です。出来上がった堆肥は当社に野菜を出荷している生産者に低価格で販売しています」と話す。
野菜くずの堆肥場
野菜くずの堆肥場

生鮮野菜は契約栽培やネットで販売 加工食品の開発、販売も

 同社は、栽培した生鮮野菜を契約栽培やインターネットで販売するほか、規格外のものを有効利用しようと加工食品の開発、販売も行っている。「大地の輝餅」は、郷土食のイモ団子やカボチャ団子を、イモ餅やカボチャ餅として仕上げたもので人気が高い。
 カレーやフライドポテト向けなどにカット、スライスされたジャガイモやカボチャは、本社敷地内の冷凍冷蔵施設で保存されている。この施設は温度と湿度両方を管理でき、生食のジャガイモを生のまま2年間保持が可能。加工食品は通年で販売できるので経営に大きく貢献している。
 また、キッチンカーを使用した地元の道の駅などで行われる各種イベントでのフード販売など、地域に根差したさまざまな活動にも取り組んでいる。
大地のMEGUMIの加工食品(ホームページより)
大地のMEGUMIの加工食品(ホームページより)
冷凍冷蔵施設
冷凍冷蔵施設
イベントなどで活躍するキッチンカー フェイスブックで出店情報を告知している
イベントなどで活躍するキッチンカー フェイスブックで出店情報を告知している

食育事業

 同社は、「未来を担う子どもたちに農業体験を通じて食の大切さを知ってもらいたい」(赤石社長)と食育活動も積極的に行っており、町内の小学校や大空高校の農業専攻の生徒らに有機栽培カボチャの栽培作業体験の受け入れを行っている。
 東京都内の放課後子ども教室の現場スタッフである田中まり子さんは、今回の研修の事業主体であるハレノヒ株式会社が運営する「農村発見リサーチ」(農村部での暮らしを通じて地域の課題解決を図ることを目的とした参加者と地域をつなぐ研修プログラム)を通じ、大地のMEGUMIの農業研修に多数参加するようになった。
 田中さんは赤石社長と交流を進めるうちに、「普段から土に触れる機会がない都心の子どもたちが、広大な大地や生産者の現場を知ることで食に興味を持ち、環境問題などを考えるきっかけになってほしい」とオンラインの食育授業を企画。今年は夏休みを中心に4回のプログラムを実施し、大地のMEGUMIの協力で大空町から広大な畑のカボチャの雌・雄花や受粉用ミツバチ、カボチャ収穫、トラクターの運転などの様子を中継。最終回は、東京の放課後子ども教室へ赤石社長がサプライズで登場し、子どもたちは届いたカボチャを持って匂いを嗅ぎ、種の数を数えるなど、子どもたちにも大好評だった。
 田中さんは、「赤石さんは生産者だけでなく教育者でもあり、子どもたちのために努力を惜しみません。親や学校だけでなくいろいろな大人とさまざまな関係を築くことで、子どもたちは豊かに成長していきます。オンラインでこの素晴らしいプログラムをこれからも都市部の子どもたちに届けたい」と赤石社長への感謝と今後の展開について話した。
大地のMEGUMIのカボチャ畑から東京の教室へ中継する田中まりこさん(左)と赤石社長
大地のMEGUMIのカボチャ畑から東京の教室へ中継する田中まりこさん(左)と赤石社長
(田中まりこさん提供)

研修生に聞く

今回の経験を公私で生かしたい

石川 英生 さん(51歳) 神奈川県在住

―自然食のバイヤーをしています。農業に関心がありますが、実際にやってみないと分からないので参加しました。今回の研修がきっかけで大地のMEGUMIさんと取引することになりました。

―公私ともに参考になりました。北海道(の農業)は大規模で日本の他の地域と違うので新鮮味があります。

―今回の経験を公私で生かしたい。どういったことで食物ができるのかを多くの人に知ってもらいたいです。

小林 さん(50歳) 京都府在住

―社会保険労務士で働く人のコンサルタントを10年しています。コロナ禍でいろいろあって農業をやりたいと思い、現在週2回(京都の)大原野で農業のパートをやっていますが、すごく楽しい。農業と働く人をつなげるサポートができないかと考えていたところ、この研修をフェイスブックで知り、参加しました。障害者の雇用の世話をしており、ここで勉強させてもらいたいです。

―率直にありがたいと思います。旅が好きで今回の研修で仲間もできたし、地元の人とも交流できる。貴重な体験だと思います。

―定年が近くなってきました。赤石さんの活動から学んで地元に誰でも何歳でもいつでも集まれる場所を作ってみたいです。

F.T さん(40歳) 東京都在住

―東日本大震災の復興ボランティアで農家や漁業の担当をし、農業に興味を持ちました。
自分のITの仕事が世の中の役に立っているのか分からないが、農業や漁業は明らかに食の面で役に立っており、全国で農業などのアルバイトをしながら勉強しています。

―初めて北海道の研修に参加しましたが、IT化は難しいところがあると思いました。収穫はITが対応できるかもしれないが、販売や流通は難しそうです。また、食の大事さを伝えることに意義があると思いました。

―農家が困っていることで私が役に立つことがあれば力添えしたい。

上地 さくら さん(27歳) 神奈川県在住

―勤務先にこの研修の経験者がおり、紹介してもらい参加しました。農業をして土を触っていたい。

―本格的な農業は初めてで楽しい。

―デザインのスキルがあり、これを生かして商品開発などで関わり、農業を展開できればと思います。

研修生の皆さん
研修生の皆さん
(了)
Facebook
X (Twitter)
おためし農業.COM・みんなの最終レポート

新着記事

人気記事