種子島で1次産業を学ぶ―鹿児島県種子島

 

鉄砲伝来の地
鉄砲伝来の地
種子島宇宙センター
種子島宇宙センター
東シナ海に沈む夕日
東シナ海に沈む夕日

鹿児島県種子島は大隅半島から南東に約40キロの位置にあり、人口は2万2000人(2022〈令和4〉年4月)。鉄砲伝来の地で知られ、種子島宇宙センターなど宇宙関連施設が多い。主な産業は農業。近年は「サーフィンの聖地」と呼ばれている。 同島で1次産業を学ぶ現地研修を取材した。研修は、2023(令和5)年の10月~24(令和6)年の2月に各5日間の日程で3回実施され、5人(男性2人、女性3人)が参加。黒糖作りや茶作りの見学、ジャガイモや安納芋、スナップエンドウの収穫作業、ワークショップへの参加などのメニューをこなした(取材は2月8~10日)。

黒糖作り

種子島の黒糖作りは19世紀に始まり、サトウキビの栽培から精糖まで行う工場がかつて300軒以上あったが、大規模工場の登場で減少していった。伝統的な製法で黒糖を作っているのは、現在では種子島・沖ケ浜田黒糖生産協同組合の工場のみとなった。

黒糖作りの説明をする長野広美さん(奥中)
黒糖作りの説明をする長野広美さん(奥中)

種子島の面積の3分の1以上はサトウキビ畑。栽培から収穫、精糖まで行う8世帯の農家が、この工場で週に一度共同で黒糖作りを行っており、黒糖の原料となるサトウキビの品種は、「農林8号」や「黒海道」など。同工場で棟梁(とうりょう)歴20年の持田光弘さんによると、黒糖作りは原料となるサトウキビの性質や、搾り汁に混ぜる石灰(汁の中の不純物を取り除く)の量で味が変わるという。研修生らは、機械によるサトウキビの汁搾りから大鍋での加熱、煮詰めた汁の練り作業、乾燥後に販売用にカット―といった工場内で職人の手によって行われている各工程を丹念に見て回った。

圧搾機で汁を搾る
圧搾機で汁を搾る
温度を段階的に上げた3つの大鍋で加熱。汁を焦げ付かせないようにかき混ぜる。燃料は薪
温度を段階的に上げた3つの大鍋で加熱。汁を焦げ付かせないようにかき混ぜる。燃料は薪
煮詰めた汁に空気を混ぜ粘りが出るまで練る
煮詰めた汁に空気を混ぜ粘りが出るまで練る
冷やして乾燥させ販売用にカットする
冷やして乾燥させ販売用にカットする

見学後、研修生は出来立ての黒糖を味見。「コクがあっておいしい。甘さ以外にいろいろな味を感じる」と舌鼓を打った。

見学を終えて
見学を終えて

茶作り

次に荒茶生産農家の坂本江里子さん宅の作業所で、種子島の茶作りを学んだ(※荒茶=完成前の段階まで加工されたお茶のこと。素朴な風味がある)。 種子島は温暖な気候を生かし、「日本一早い走り新茶(初物の茶)」の産地として優位を保ってきたが、近年は消費量の減少で荒茶の価格が低迷。坂本さんは近隣の荒茶生産農家2戸と「Team 和茶・わちゃ」を運営し、計11ヘクタールの農園で新茶の開発や流通方法の模索などで所得向上と消費拡大を目指している。 座学の後坂本さんと川口麻紀夫さんの農園で、次回の茶摘み(4~5月)に向け葉に付いたごみや虫を取り除く作業を行った。坂本さんは「茶摘みは機械化していますが、この作業は人の手でしかできません。天敵は新芽だけを食べるシカ。新茶のてんぷらはおいしいですよ。気温が5度を下回ると霜よけの扇風機(防霜ファン)が作動します」と説明した。

ごみを除く
ごみを除く
作業を終えて
作業を終えて
お茶の花
お茶の花

ワークショップ 地域組織設立総会

続いては、地域課題を解決するワークショップに地元の農家や自治体と共に参加。研修生は労働力確保などのテーマで企画を発表した。研修主体者のハレノヒの赤井田幸男代表取締役から、労働力確保体制強化や農泊事業推進の提案があった。 研修生から「繁忙期にアルバイトやインターンで人材を供給」「自分ではつながれないが食や農に関心がある女性を対象に『農業体験』×『地域とつながる』×『島の自然を楽しむ』をコンセプトに旅を企画」「農泊リノベーション。おばあちゃんに料理を作ってもらう」などの提案があり、鹿児島県農業開発総合センターの船迫田鶴農業専門普及指導員は、「学生のインターン制度など今回の提案を、農家の皆さんにはぜひ実施していただきたい」と要望した。

ワークショップで種子島の課題解決について話し合う
ワークショップで種子島の課題解決について話し合う

企画を提案
ワークショップ後に「種子島アグリタス設立総会」が開催され、研修生も参加。同組織は鹿児島県熊毛支庁(西之表市)とハレノヒが連携して設立の準備を進め、種子島の農業の労働力確保などを目的として16人の農家が結成した。 会長に就任したサトウキビ農家の梶屋誠之さんは「種子島の新しい魅力をハレノヒさんの支援を受けながら発見したい」とあいさつした。

あいさつする梶屋会長(奥)
あいさつする梶屋会長(奥)
参加者全員で
参加者全員で

ジャガイモ収穫

農作業体験は、南種子町の大脇健寛さんの農園でジャガイモの収穫を行った。大脇さんはジャガイモのほか、サトウキビと種子島特産の安納芋を栽培。サトウキビは1カ月に440トンを収穫するという。 大脇さんの指導でまずマルチシートを除去し、ジャガイモの収穫に取り掛かる。品種はニシユタカ。スタッフの指導でA品(優良)、B品(青い、斑点がある〈そうか病〉、小さいもの)、廃棄の三つに分類した。大きくてもそうか病のイモはB品になる。 大脇さんの農園は海が近い。「種子島の冬は北風が冷たく風が当たるとジャガイモに良くないので、風よけのネットを設置しています」(大脇さん)。休憩時間には安納芋の焼き芋が振る舞われ、「甘くておいしいですね」と大好評だった。

マルチシートを除去
マルチシートを除去
分別の説明
分別の説明
黙々と収穫
黙々と収穫
収穫したA品
収穫したA品
休憩時に質問を受ける大脇さん(右端)
休憩時に質問を受ける大脇さん(右端)

研修生に聞く

研修に参加した経緯を教えてください

和田 晴輝さん(22歳)宮崎県在住

―大学で食品開発を学んでおり今まで原料を気にすることがなかったが、生産現場を知りたいと思い参加した。

岡本 尚子さん 東京都在住

―農業や地方創生に興味があり、Facebookで農村発見リサーチの取り組みを知り応募した。

田中 まりこさん 東京都在住

―自ら企画した食育プログラムで北海道大空町の農家さんと都市部の人をつなぎ双方に喜んでもらえた経験から、別地域でも展開したいと思い応募した。

研修に参加した印象は?

和田さん

―農業の現状や人手不足の深刻さを知ることができた。農家さんのこだわりも知り、野菜を買う際の指針を学べた。

岡本さん

―観光地化されていない見渡す限りのサトウキビ畑で農作業を手伝っているうちに食べている農産物への愛情が生まれた。島で寝転んで見た満天の星は今でも目に焼き付いている。

田中さん

―種子島の温かく素敵な農家さんや行政の方、さまざまな背景を持つ研修仲間と出会えて感謝の気持ちでいっぱい。生産現場やワークショップでの対話や意見交換も貴重な体験となり、種子島はまた帰ってきたいと思う大切な場所となった。

今後の展開について

和田さん

―新卒で入る会社で、土壌分析や残留農薬検査などの業務を通じ農業に関わっていく。後々は地元鹿児島に恩返ししたい。

岡本さん

―インフルエンサーの友人や家族、知人など周りの人たちと種子島をはじめ多くの農村が抱える労働者不足などの問題を共有し、少しでも多くの若者に農業への関心を持ってもらえるような活動をしていきたい。

田中さん

―▽自分のイベントで安納芋や和紅茶を扱い、その魅力を発信。
▽種子島の学童と都心部の放課後こども教室をオンラインでつなぐプログラムを開発
▽種子島の農家さんとつながり農業の手伝いをするご縁旅の企画を実施したい。

(了)