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グリーン・ツーリズムの里で地域観光づくりを学ぶ 栃木県大田原市

グリーン・ツーリズムの里で地域観光づくりを学ぶ 栃木県大田原市

市内の御殿山(こてやさん)から眺める大田原市の全景
市内の御殿山(こてやさん)から眺める大田原市の全景
関東地方屈指のコメの生産高を誇る大田原市 晩秋の稲田の風景
関東地方屈指のコメの生産高を誇る大田原市 晩秋の稲田の風景
グリーン・ツーリズムを推進する大田原市の庁舎
グリーン・ツーリズムを推進する大田原市の庁舎

 大田原市は栃木県の北東部に位置し、県庁所在地の宇都宮市から37キロ、車で約1時間の距離にある。かつては下野国の豪族・大田原氏が築き、そのまま近世大名としての居城となった大田原城の城下町として栄え、奥州街道の宿場町としても知られる。「平家物語」に登場する那須与一や「奥の細道」の松尾芭蕉ゆかりの地など、歴史的名所も多い。

 産業は、農業と畜産が盛んだ。市内には那賀川、箒川、蛇尾川の三つの1級河川が流れており、那須連山から広がる扇状地の肥沃(ひよく)な広い土壌に恵まれ、コメの生産高は栃木県内トップ。アスパラガスやウド、トウガラシ、ネギ、トマト、ギンナン、イチゴなど多くの野菜や果物が栽培されている。ウドとトウガラシの生産量は、全国でもトップクラス。那珂川は清流で知られ、アユの漁獲高は日本一を長く続けている。

 田園が広がり、里山の風景が美しい当地で、地域観光づくりを学ぶ現地研修を取材した。研修は2023(令和5年)3月4日から5日までの2日間で、既に計8日間の農泊や農業実務、6次産業、古民家の研修を終えた参加者(男性2人、女性1人)が、座学の集中講義でDMOの地域観光づくりを学んだ。

DMOとは

 観光地域づくり法人のことで、英語の「Destination Management/Marketing Organization」の略称。旅行者の目的地の地域が一体となって当地の観光を宣伝、マネジメントする目的で結成された組織のこという。

 「観光地域づくり法人は、地域の『稼ぐ力』を引き出すとともに地域への誇りと愛着を醸成する『観光地経営』の視点に立った観光地域づくりのかじ取り役として、多様な関係者と協働しながら、明確なコンセプトに基づいた観光地域づくりを実現するための戦略を策定するとともに、戦略を着実に実施するための調整機能を備えた法人」(観光庁ホームページ)。

 2022(令和4)年10月28日時点で、「広域連携DMO」10件、「地域連携DMO」103件、「地域DMO」142件の計255件が登録されている。

大田原ツーリズム

 今回の研修の事業主体である大田原ツーリズムは「地域DMO」の一つ。2012(平成24)年に大田原市と民間が合弁で、民間のノウハウやマネジメント能力、サービス精神を取り入れるため株式会社として設立された。観光庁がインバウンド対策で支援を強化すべき「重点DMO」に2年連続で選定されている。藤井大介氏が代表取締役社長を務める。

地域観光づくりを学ぶ

研修が行われた大田原市総合文化会館 大田原ツーリズムのオフィスもある
研修が行われた大田原市総合文化会館 大田原ツーリズムのオフィスもある

 研修ではまず、大田原ツーリズムの藤井社長が大田原市の概要を説明した後、当地で大田原ツーリズムが誕生し、グリーン・ツーリズムをどのように推進していき、その中で農家をはじめ地域の人の意識がどのように変化していったのかを説明した。

藤井社長(奥)の説明を聞く研修生
藤井社長(奥)の説明を聞く研修生

 藤井社長は、「大田原にも人を呼べる。地域を農業から活性化したいと強く思いました。そのためには何をすべきか。全国的に需要のある教育旅行にターゲットを絞り、学校や企業が修学旅行や研修で農村に長期滞在できる宿泊先として農家に協力を仰ぎました。1軒1軒何度もお願いに伺って話し合い、最初はゼロだった受け入れ先の農家が、今は大田原市と周辺の地域を含めて180軒までになりました。年間6000人が宿泊しています。大田原のキラーコンテンツはこの農家民宿です。

 最初は、“何もないこの土地に人が来るわけがない”と断られていましたが、地元の人には当たり前の風景や生活が、都市の人にはとても魅力的なものです。また、外国人にもきっと喜ばれるとの確信もありました。県外や外国から多くの人が来てくれるようになり、意識が変わっていきました。閉鎖的だった方が外国人と交流するうちに外国に行くようになり、人や地域がどんどん活性化していきました。

 次は個人旅行です。個人が長期滞在できるところとして、飯塚邸という地元の有形文化財の伝統建築をホテルに改装しました。食事、観光、各種体験をホテルの外で行ってもらうことで町を回遊し、長期滞在ができるようにしました。また、新しい試みとして農家でも個人旅行の受け入れを始めており、その取り組み農家も5軒まで増えました。

 コンテンツ作りのマーケティングにおいては、顧客が何に喜ぶのか、相手が欲しいものは何かを考える。これには顧客への“愛”が必要です」と大田原での地域観光づくりのアイディアとプラン、これまで推進してきた方向性と発想の原動力は何かを研修生に伝えた。

 続いては、藤井社長から課題解決の実践問題として、「廃校をテーマにマーケティングでどのようにお客さまに来てもらうか」について四つの質問が出された。

 質問1=企業の旅行ニーズは何か?

 質問2=そのニーズから考える体験とプログラム内容は?

 質問3=学校の旅行ニーズは何か?

 質問4=そのニーズから考える体験とプログラム内容は?

 まず藤井社長から「皆さんが今考えているものが正しいかそうでないかは関係ありません。考えることを実行することが大事です。グループディスカッションでは、相手を否定しないことがルールです」との説明があり、研修生一人ひとりが質問に対する考察を開始した。その後、それぞれの案を基に全員で話し合い、リーダー役が代表して内容を発表した。

藤井社長の質問を考察する研修生
藤井社長の質問を考察する研修生

 藤井社長は実際の成果を実例として挙げた。

 二つ目の実践問題は、「農家民宿の受け入れ整備」をテーマに三つの質問が出された。

ディスカッションする研修生たち
ディスカッションする研修生たち

 研修生たちは1問目の質問と同様に、各人が考察、アイデアを持ち寄りディスカッション、リーダー役が代表して発表―という流れに沿って回答を出していった。

 藤井社長は研修生らの回答に対し、「農家民宿をしていると、人との交流が楽しいし、人から頼まれると社会的意義を感じることもメリットですね。農家への声掛けはまずどこに農家がいるか調べることが大事です。農家とどう接触するか、農業者の集まりにどれだけ参加するかなどの努力が必要です」と各質問の回答を説明した。

 座学の後は、大田原の観光資源の一つである牧場の「NASU FARM VILLAGE」を訪れた。屋外での乗馬体験や厩舎(きゅうしゃ)で馬と触れ合えるほか、地産の食材を使ったレストランなどの牧場施設を見学し、この日の研修を終えた。

「NASU FIRM VILLAGE」の眺め
「NASU FIRM VILLAGE」の眺め

「NASU FARM VILLAGE」の眺め(上2枚)

研修生に聞く DMOとしてグリーン・ツーリズムを展開したい

佐藤さん(栃木県在住)

プログラムへの参加のきっかけを教えてください。

 NPO法人で仲間とDMOの活動をしています。以前に大田原ツーリズムの藤井さんに指導していただいたことがあり、グリーン・ツーリズムのことをもっと勉強したいと思い参加しました。

実際に現地で参加してみて、いかがでしょうか?

 客の立場になって観光や農業体験ができましたし、いろいろな気持ちを農家さんと共有できてよかったです。

これからやっていきたいこと、展開していきたい方向性は?

 それぞれの地域を生かせるプログラムを作り、すぐ始められるところから取り組んで活動していきたいと思います。

N・Sさん(茨城県在住) N・Sさんは、夫婦で参加

プログラムへの参加のきっかけを教えてください。

 農業関連の団体に所属しています。コロナ禍で自由に動けませんでしたが、ようやく久しぶりに外で活動ができるようになりました。夫婦でこれからの生活基盤を見直したいと思っており、グリーン・ツーリズムを体験できる研修があることを知り参加しました。

実際に現地で参加してみて、いかがでしょうか?

 研修ではマスクを着けるなどエチケットは守っていましたが、農家さんとの心の距離がとても近く感じたことが印象に残っています。

これからやっていきたいこと、展開していきたい方向性は?

 職場で自給自足の話をよくします。これからは地に足を着けて、自分がやったことが分かるようなグリーン・ツーリズムや農業などをできれば全国で展開していきたい。夫婦二人で何ができるか考えたいと思います。

木藤利恵子さん(栃木県在住)

プログラムへの参加のきっかけを教えてください。

 (日光市在住のため)もともと大田原の農泊の取り組みについて知っており、大変興味をもっていたから。農村を恰好良く、元気にする秘訣(ひけつ)を知りたかったからです。今回のプログラムはSNSなどで広告を目にし、応募しました。

実際に現地で参加してみて、いかがでしょうか?

 農家の方々の熱意に触れ、農家の皆さんの志、恰好良さを肌で感じられたことは、得難い体験でした。ただの日帰りの視察では感じることのできない、濃い時間がありました。大田原の農家さんのポテンシャルの高さに驚きました。10年という歳月、続けて来られた農泊事業だからこそ、他では容易にまねのできない信頼関係の構築とノウハウが蓄積されていました。自分のビジネスプラン作成のワークショップも、研修生同士でディスカッションしてブラッシュアップし、実のあるものになりました。

これからやっていきたいこと、展開していきたい方向性は?

 今回の体験で得た知見をもとに、日光市の農村、山間地域を元気にするプロジェクトを考えたいと思います。同じ栃木県なので、大田原市と日光市のつながりを今後も持てたらと思います。

 個人的にはこれから旅行業を考えており、今回考えたビジネスプランに沿って、開業準備を進めたいと思います。

(了)

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